ニホンザルにおけるシラミ卵のつまみ方の多様性と、つまんだ指をゆるめることから始まる社会とのつながり
田中 伊知郎(四日市大学・環境情報学部)



 ニホンザルは、毛づくろいのときにシラミの卵を親指と人差し指で挟んで、つまんで、把握して、処理する。このシラミ卵処理時の指の使い方、特に、平爪の使用における多様性について、図やビデオを用いて紹介する。多様性は、個体内にとどまらず、集団内(群れ内)にも存在する。しかし、多様性の時間空間的パターンが異なる:個体内では、ある特定の時期では、一様で多様性が見られないのに対し、集団内では、個体ごとのつまみ方の違い方として横断的多様性が存在する。

 シラミ卵処理の指の使い方の個体発達の段階性から、複数の獲得要素が示唆された。そして、つまむと中身が見えないが、つまみをゆるめると「何を把握しているか」の中身が見えるようになる。この指をゆるめることから社会的相互作用が生じる。この相互作用(同一対象に対する複数個体の処理)が、集団内のつまみ方の分布に社会的効果を及ぼし、社会的偏りを生じさせる。この偏りから、遺伝的にプログラムされた指の形(筋骨格系や平爪)の下、個体学習で最適化や満足化を行うことでつまみ方が獲得されるとする拡大アフォーダンスの概念だけでは、多様性の説明がつかないと考えられる。




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