はじめに
石田英實(滋賀県立大学・人間看護)



 中新世後期の中頃までにヒト上科のあるグループが二足歩行を始めたことはほぼ間違いがない。この歩行様式を導いたのは、たんに新しがり屋が個人的に二足歩行をはじめ、それが群れに広がったからだとは思えない。伝統的な歩行様式を捨て、新しい様式を採用するには、彼らの生活にかなり大きな圧力がかかったからとみるのが妥当である。

 採食と逃避は生活上の二大要素である。これらに支障が生じた時、様々な点で生活上の変更を迫られる。支障は何により引き起こされるか、人口爆発による食糧難も大きい原因であろうが、環境的要素がそれ以上に大きいものではなかろうか。

 樹上性の霊長類の場合、広大な森林が維持されておれば、彼らは生活様式を大きく変更しなくても生きてゆける。しかし、森林が消失すればそれまでの生活は難しくなり、根底から生活様式の変更を迫られる。

 ここで、問題になるのが中新世後期のアフリカ、ことに東アフリカの環境であろう。サバンナ化が進行し、森林が消失するという環境変化が存在したのか。東アフリカの中新世後期は全体であれ、部分的であれ、森とサバンナの間を大きく揺れ動いたと予想される。

 このシンポジウムでは、上のように人類誕生のキーファクターが環境であったという視点に立ち地質学、古植物学、古動物学の3つの分野から中新世後期の東アフリカに見られた環境変動の姿を追う。





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